ここは丘の上の喫茶店ボール。
ここでは今日も様々な人間模様が繰り広げられています。
マスターのワクさんは来てくれる人たちにちょっとでもいい気分になってほしいな〜なんていつも考えていました。癒しの場所で、元気の源で、勇気の泉。そんなゴキゲンな空間にしたいなって。
そんなことを思っていたワクさんですが、ある時から「ゴキゲンくん」を生み出せるようになりました。
ゴキゲンくん?
急にゴキゲンくんと言われても何がなんだか分かりませんよね。でもこの物語はゴキゲンくんが活躍します。続きは絵本を読んで確認してくださいね。読み終えた時、あなたのそばにもゴキゲンくんがいてくれたら嬉しいな。
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遠くから聞こえる甲高い声。
あれは近所の株式会社『かやま不動産』のイーラ部長。何を言っても響かない部下のジュンジ〜本田に向かって今日も怒っています。
イーラ部長「お客さんに向かってなんであんなこと言うの!💢」
ジュンジ〜「いや、ほんとのこと言っただけですよ?」
イーラ部長「あのラーメン屋さんの場所どうしても売ってもらわなきゃ困るの!なのに、なんであんな大きな声でここのラーメン伸びてるなんて言うの!💢」
ジュンジ〜「だって本当にノビノビだったですもん♪」
イーラ部長「言っていいことと悪いことの区別もつかないの?店主すごくイライラしてたじゃない!あんな状態で話が出来るわけないでしょ!💢」
ジュンジ〜「いやいや、イライラしてるのイーラ部長だけっしょ、全然大丈夫ですって♪」
イーラ部長「どんだけーーーー!!!もう無理。ちょっと本気で説教するわ。ちょっと『ボール』に寄っていくわよ。あんたのせいで時間はたっぷりあるんだからね💢」
ジュンジ〜「おおー、ボールいいっすねー!♪行きましょう行きましょう!♪」
イーラ部長「(こいつホント背負い投げしたいわ…)💢」
久世「いらっしゃいませ〜」
ワクさん「いらっしゃい」
イーラ部長「ちょっと聞いてくれるワクさん。この子ほんっっっとに空気読めなくて💢」
ジュンジ〜「久世ちゃんご無沙汰〜。美味しいコーヒーも飲めて可愛い久世ちゃんにも会えて♪ラッキー♪」
イーラ部長「それがイライラするって言うのよ!あんた今から説教されるのよ!?分かってる!?なんか語尾に♪がついてそうな話し方ばっかりして!💢」
ジュンジ〜「あ、分かります?♪俺多分ついてますよ♪」
イーラ部長「ムキーーーッ!!!なんで私があなたのような新人の教育係をしなくちゃいけないのよ!あなた何を言っても響かないんだからもう限界よ!💢」
ワクさん「まあまあ、イーラさん落ち着いて。今日は特別なコーヒーを淹れてあげるから。ジュンジ〜も今日はこれね。美味しいだけじゃないこの不思議なコーヒー。きっとゴキゲンになれると思うよ」
マスターであるワクさんはそんな感じであるコーヒーを薦めました。豆を見ても何も変わったところはありません。いつもと変わらない普通の豆です。
豆を挽くといい匂いがしてきました。
イーラ部長もジュンジ〜もそれでちょっと穏やかに。コーヒーが好きな二人はもうそれだけでちょっと満足です。
久世がコーヒーを運びます。で、なぜか久世はその時ワクさんをチラッと見ました。ワクさんは目配せをして軽く頷きます。
さて、どういうことなのでしょうか?
久世「お待たせしました〜」
イーラ部長「ありがとう」
ジュンジ〜「ありがとう♪」
久世が二人の前にコップを置こうとした瞬間、袖がお盆に引っかかってしまいちょっと溢してしまいました。
久世「す、すいません、今すぐ布巾持ってきます」
と言って取りに行ったのになかなか帰って来ない久世。そうこうしているうちに溢れたコーヒーはシミになってしまいました。
ワクさん「そろそろかな?」
ワクさんはおもむろにそう呟きました。
するとどうでしょう。出来てしまったコーヒーのシミが浮き出てきて喋り出したのです。
そう、これが不思議なコーヒーの正体、シミが「ゴキゲンくん」となって現れるってことでした。ワクさんがある時から使えるようになった、魔法のようなゴキゲンくん。ただのシミのはずなんだけど心に染みる言葉を二人に伝えていきます。
ワクさん「まあコーヒーでも飲みながらゴキゲンの話を聞いてみようか」
そう言ってワクさんは新しくコーヒーを出しました。久世もその時に裏から戻って来ました。
ゴキゲンくん「イーラ部長、伝えたいことが伝わらないって辛いよね。哀しくて怒ってしまうよね。それがよくならないとずっとイライラするよね。うん、その気持ち分かるよ。すごく分かる。でもね、ずっとイライラするって自分にとって優しくないよ。もっともっと自分を大切にしてね。部長は笑っていたいよね。ボクも部長に笑っててほしいから、だから出来ればゴキゲンでいてね。大丈夫。感情は選べるからね。そう思えたらそう出来るから」
ゴキゲンくん「ジュンジ〜、いつもノビノビして自分の気持ちが出せるのは素敵なことだよ。それが出来なくて悩んでいる人はいっぱいいるからね。でもねジュンジ〜。相手の気持ちを考えるってすっごく大事なことだよ。それが全然出来ないとみんなジュンジ〜から離れてしまうよ。だからちょっとだけでいいから、相手の気持ち考えてから自分の気持ちを伝えてね。ジュンジ〜も、本当は相手にもいい気分になってほしいでしょ?だってそっちの方がジュンジ〜自身もいい気分のはずだから」
ワクさんの出してくれたコーヒーは心を穏やかにしてくれました。だからいつもは素直に聞けないような言葉でもすっと心に容れることが出来ました。
イーラ部長「私、ジュンジ〜が羨ましかったのかもしれない。うん、羨ましかったんだろうな。ありがとう、ゴキゲンくん」
イーラ部長は少しすっきりした様子。ゴキゲンくんのおかげでちょっとゴキゲンです。
ワクさんの出してくれたコーヒーは心を緩やかにしてくれました。だからいつもは素直に聞けないような言葉でもすっと心に容れることが出来ました。
ジュンジ〜「………、うん、やっぱり俺、愛されて生きていきたいです。ありがとう、ゴキゲンくん」
ジュンジ〜は何かを取り戻した様子。ゴキゲンくんのおかげでちょっとゴキゲンです。
ゴキゲンくん「よかった。ボクもゴキゲンになれたよ。ありがとうイーラ部長、ジュンジ〜」
そういうとゴキゲンくんはゆっくりと消えていきました。
ワクさん「何かに気づいて、何かを思い出したんだろうね」
久世「はい。きっと大切なことを」
ワクさんと久世、そしてゴキゲンくんは、こんな感じで誰かをゴキゲンにして過ごしていました。それはワクさんがずっとやりたいって思っていたことでした。
ある日はこんな人が訪れました。
その男はバリバリのサラリーマン。知る人ぞ知る有名な営業マンです。最高のキャリアを積み上げて、しかも彼に売れないものはないと噂が立つほどのバリバリのスーパーマンです。
カランコロン。
久世「いらっしゃいませ〜」
ワクさん「いらっしゃい」
カロレス「こんにちは。コーヒーをお願いします。あ、ここパソコン使っても大丈夫ですか?ちょっと急ぎで書類作らなくちゃいけなくなって、この店が見えてちょっと入ろうって思ったんです。
久世「大丈夫です。ではコーヒーお持ちしますね」
カロレス「あ、すいません、15分くらいで仕事終わるのでその後でもかまわないでしょうか?ご無理言いますがよろしくお願いします」
久世「分かりました。ではいい時間でお声がけくださいね」
そして15分後。カロレスの仕事が一段落ついた模様です。コーヒーの注文があったので豆を挽き始めました。
でもおや?少し様子のおかしいカロレス。書類が出来てホッとしたはずなのにずっと浮かない顔をしています。遠くを見てため息ばかり。何か気分が晴れない様子。ワクさんはちょっと気になってカロレスに声をかけました。
ワクさん「どうかされましたか?浮かない顔を拝見したもので思わず声をかけてしまいました。見ての通り今日は他にお客さんもいないので、よかったらお話ししませんか?」
カロレス「あ、いや、なんでもないですよ。大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
ワクさん「それならいいんです。大変失礼しました」
ワクさんはそう言って席を外しました。豆が挽き終わりコーヒーを注ぎます。それはもちろんあの不思議なコーヒーでした。
久世がコーヒーを運びます。お待たせしましたとコップを置こうとした瞬間溢してしまいました。もうお分かりだと思いますが、わざとです。
久世「ああ、すいません、急いで布巾お持ちしますね」
と言って取りに行ってなかなか帰ってこない久世。ここでもコーヒーのシミが出来ました。再びゴキゲンくんの登場です。カロレスはびっくりしましたが、ゴキゲンくんの愛らしい表情を見て和みました。そしてワクさんが新しいコーヒーを持って来ます。いい香りのする美味しいコーヒー。それはカロレスの心を和やかにしてくれました。
ここでカロレスは意を決してワクさんに話しかけました・
カロレス「マスター、ちょっといいですか。さっきはすいません、冷たい対応をとってしまって。実は今モヤモヤしてるんですけど、それを人に知られたくなくて。みんなボクのことをスーパーマンみたいに扱ってくれてそれは嬉しいんですけど、実は家庭では全然うまくいってなくて。特に娘とは最近ほとんど口を聞いていません。それどころか一緒に住んでいるのに会うこともほとんどありません。これでいいんだろうか?って思ってるんです。仕事は物凄く順調です。でも家庭では…」
ワクさん「そうだったんですね。もしかしたらゴキゲンくんがいいこと言ってくれるかもしれないですよ。ちょっとゴキゲンくんの言葉に耳を傾けてください。」
久世もその頃には戻っていました。
そしてゴキゲンくんが喋り出します。
ゴキゲンくん「お仕事頑張ってるね。お疲れさま。そのことに対してみんな凄いと思ってるよ。それは周りだけでなく家族もね。そしてきっとありがとうって思ってるよ。その思いは心にあるだけだからカロレスさんには届いていないかもだけどね。
今何かモヤモヤを感じているとしたら、どこかが間違っているのかもしれないよ。例えば大切なものの順番とか、思っていることを口に出していないとか、そもそも思っていることがちょっとだけ違ってるとか」
↑手書きの手紙っぽく
ゴキゲンくん「だから一度考えてみて。今の自分は自分を大切にしているかって。それは未来の自分も含めて大切にしているかってことだよ。もし大切にしていなかったら、それを大切にしてみてね。それはカロレスにとって長く険しい道かもしれないよ。でも、それを心に決めてやってみようね。必ず大切なものを取り戻すことができるから。出来るよ。カロレスなら。大丈夫だよ」
カロレス「…僕は何かを間違っていたようだ。ありがとう、ゴキゲンくん」
ゴキゲンくん「うん、大丈夫。自分の心と向き合えたら、後はこれからどうするか、だよ」
カロレス「今は仕事一番になってたよ。でもきっと一番は家族なんだよね。気づかせてくれてありがとう」
ゴキゲンくん「違うよ。家族が一番じゃないよ」家族一番って考えると、今度は自分を犠牲にして生きていくことになるよ。やりたいことを我慢する。好きなことをやめる。それではいつか心が疲れていって、今度は全部を家族のせいにしかねないよ。もう一度言うよ。大切なのは自分を大切にすることなんだ。もっと大きな視点で考えてみて。家族だけでなく、自分もよりよくなる形はなんなのかって。」
カロレス「そうか…。そうだよね…。やはりみんながニコニコ笑って暮らせる日々を過ごしたい。」
ゴキゲンくん「うん、それは長く険しい道になるよ。今日明日になんとかなるもんじゃないからね。ゆっくりじっくり。諦めないで。自分の未来を信じて、その道を進んでね。」↑手書きの手紙っぽく
カロレス「ありがとう…。うん、頑張ってみるよ。ボクは僕たちの笑顔を取り戻すよ。諦めないからね。」
ゴキゲンくんはカロレスの穏やかで、しかし決意もあるその顔を見てゆっくりと消えていきました。
ワクさん「今度は家族で来てほしいね。」
久世「はい。いつかきっと来てくれると信じてます」
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ワクさんと久世、そしてゴキゲンくんは、他にもたくさんの人をちょっとだけゴキゲンにしてきました。イジイジしてる人、オロオロしてる人、メソメソしてる人、プンプンしてる人。店を出る時にはみんな笑顔でありがとうと言って帰っていきました。それはワクさんにとって誇りでもありました。
ずっとそうでありたいな、とせつなくはかなく願っていました。
ブレス「こんにちは〜〜〜!!!」
久世「あ、ブレスさんこんにちは」
ブレスは毎日パンを届けてくれるイキイキベーカリーのお兄さん。ボールはコーヒー専門店で料理はなくて出せるのはパンのみ。そのパンもイキイキベーカリーに全部依頼していました。
ブレス「今日はパンの他にドーナツも持って来ましたよ!あ、これはいつも買ってくれてるんでサービスです。よかったらお客さんに出してあげてくださいね。もちろん二人で食べてもオッケーですよ!」
すごく楽しそうに配達をするブレス。いつしか久世は彼に恋をするようになりました。
彼女はいるのかな〜、好きな人はいるのかな〜、私のことどう思っているのかな〜、なんて妄想はつきません。少しの間はその妄想を楽しんでいたのですが、だんだんと自分の想いを伝えたいと思うようになりました。それはワクさんとゴキゲンくんのおかげでもあります。二人(一人と一匹?)を一番近くで見て来たのは久世。このままでは後悔するかも、と思い、思い切って告白をすることにしました。
が、やはり最後の最後の勇気が出ません。毎日顔を合わしているから声をかけるだけでいいのにそれが出来ません。
ワクさんはそれを見ていました。そして久世にコーヒーを出し、溢しました。
ゴキゲンくん「うん、今思ってるとおりだよ。最後の勇気を出してみようよ」↑手書きの手紙っぽく
最後の勇気をもらった久世。ついに決心して想いを伝えました。
久世「好きです」
ちゃんと伝えることが出来ました。
が、
ブレス「ごめん久世ちゃん。ボクには付き合ってる彼女がいるんだ。その彼女といつか結婚したいと思ってる。久世ちゃんの気持ちは嬉しいけど、受け取ることは出来ない。ごめんね」
久世の恋は叶いませんでした。
久世は必ずうまくいくと思っていたわけではありません。でも、やはりその現実はとても辛いものでした。辛くて毎日泣いている久世。でも仕事だからボールに行かなくちゃいけない。そこでは毎日来るブレスと顔を合わさなきゃいけない。もうそれに耐えることが出来なくなった久世はボールを辞めてしまいました。
ここから物語は月日が経ちます。イーラ部長やジュンジ〜、カロレスや久世はどうしているのか、そしてなぜワクさんはゴキゲンくんを生み出すことが出来るようになったのか。では最後までおつきあいくださいね。
ワクさん「実はこの店を閉めることになってね。今までありがとうね」
イーラ部長「え?」
ジュンジ〜「どういうことっすか?」
カロレス「き、聞いてないですよ!」
ワクさん「そりゃ言ってなかったからね(笑)今週いっぱいで店を閉めることにしたよ。今まで本当にありがとう。ワシもみんなと過ごせて楽しかったよ」
イーラ部長「い、いやいくらなんでも急すぎじゃない!?あの時からここに来るのいつも楽しみにしてたのに!ゴキゲンくんには一度しか会えていないけど、あれから私は変われたの。そして挫けそうになってもまたここに来たらあの時の気持ちを思い出すことが出来た。まだ私にはここが必要。だからまだ辞めないで!」
ジュンジ〜「俺はワクさんがそういうならいいけど、やっぱり寂しいな…」
カロレス「うん、私もワクさんが決めたことなら仕方ないと思いますが、やはりこの店にはすごく思い入れがあります。続けて欲しいのが本心です」
イーラ部長やジュンジ〜は元より、カロレスもボールの常連になっていました。
ワクさん「いや〜、コーヒーを溢し過ぎて赤字になってしまってね(笑)それにワシも歳だしもうゆっくりしようかなって。」
ワクさんは悲しく微笑みました。そして店を閉めることになりました。それは久世が辞めてから半年後のことでした。
久世の耳にもワクさんがボールを閉めたことが入って来ました。そしてまだ日常を取り戻すことが出来ない久世はさらに落ち込みます。
久世「(私のせいだ。私が辞めたらかお店が回らなくなったんだ…)」
こう思ってしまった久世は塞ぎこみました。そしてそんな状態でワクさんに会いに行くことが出来ませんでした。どんな顔して会っていいか分からない。いや、もしかしたらワクさんは私を恨んでるかも。久世はどんどん悪い妄想を膨らませていきます。もう何も行動することが出来ない久世。前を向くことが完全に出来なくなってしまいました。
イーラ部長たちがワクさんが亡くなったのを聞いたのは、店を閉めてから半年後のことでした。
イーラ部長「そういうことだったのね…」
実はワクさんがボールを閉めたのは、赤字のせいでもなく、人不足のせいでもなく、どうしても治らない病気にかかってしまったからでした。もう先は長くないと知りつつもなんとか頑張ってきました。最後は笑顔でいようと努めていましたがそれも限界が。日が経つにつれお店に出ることが出来なくなり、やむを得ず閉めることに。最後は海の見える病院で息を引き取ったとのことでした。
イーラ部長「ジュンジ〜、ボールに行こう。お店はまだあったはずだから、どうしてももう一度行きたい。迷惑かもしれないけど、せめてお花を…」
ジュンジ〜「はい、行きましょう。俺ももう一度ボールを見たいです」
二人はボールを訪れました。少しさびれた気もしますが、そこにちゃんとありました。
カロレス「あ、イーラさん、ジュンジ〜さん」
カロレスも来ていました。いてもたってもいられなくて、どうしてももう一度ボールの場所に行きたくて来ていました。
3人はボールを見つめます。
ワクさんとの思い出をかみしめています。
その時です。
おもむろに扉が開きました。
誰もいないはずの扉が…
そこにいたのはゴキゲンくんでした。
ゴキゲンくんはか細い声で助けを求めます。
ゴキゲンくん「みんな、どうかボクの最後の願いを聞いてほしい。ボクはこの店から一人では動くことは出来ないんだ。だから力を貸してほしい。どうか、どうかボクを久世のとこまで運んでほしい。どうしても、どうしても久世に伝えたいことがあるんだ。あの最後の豆を届けてほしい。それだけでいいからボクの願いを叶えてほしい」↑手書きの手紙っぽく
もう今にも消えそうなゴキゲンくん。
3人は豆を持ち久世の元へ急ぎます。
その頃、久世もワクさんが亡くなったことを聞きました。それを知り久世はさらに落ち込みます。あんなによくしてくれたワクさん、あんなに迷惑をかけたワクさん。もうありがとうを言うことも謝ることも出来なくなってしまったことでうちひしがれる久世。
もう生きていけない…
久世はそこまで追い詰められていました。
でもその時。
ゴキゲンくんを連れて3人がやってきました。
ジュンジ〜「久世ちゃん!いるよね!?どうしても渡したいものがあるんだ!」
カロレス「ゴキゲンくんの最後の願いなんだ!」
イーラ部長「きっともう時間はない!早く!早く!」
久世は3人の声を聞きました。でも今は自分で出て行く気力がありません。彼らに合わす顔がない、もしかしたらワクさんのことで責められるのでは…、という妄想で動くことが出来ません。
ゴキゲンくん「久世、最後に一度顔を見せて」
力のないその声は久世の心に届きました。力がないからこそ久世の心に届きました。役目を終えたゴキゲンくんはゆっくりと消えていきます。それは安らかな笑顔でした。
3人は最後の豆を久世に渡すとその場を去りました。久世とゴキゲンくんを2人きりにしてあげた方がいいと思ったからです。
久世はその豆を挽きコーヒーを入れました。ゴキゲンくんが出てくるとは思っていましたが、私は何を言われるんだろうと心配もしていました。
わざとテーブルに溢します。するとそのシミはかたどっていきます。
久世は泣きました。
現れたのはゴキゲンくんではなくワクさんだったから。
ワクさんをかたどったシミが浮き出てて、久世に話しかけます。
ゴキゲンさん「久世、まずは謝らせてほしい。どうしても二つ謝りたいことがあるんだ。まずはね、ワシは余命宣告を受けていたんだ。だからずっとボールを続けられないことは分かっていた。でもそれをお前に言うのが辛くて悲しくて。どうしても言うことが出来なかったんだ。そしてもう一つ。お前に会いに行かなかったこと。お前が苦しんでいるのは知っていた。でもどんな顔をしてどんな言葉をかけていいか分からなかったんだ。だから、今になってしまってごめんな。
そしてありがとうを言わせておくれ。お前と一緒にボールでみんなと過ごした時間は最高だった。特に、ゴキゲンくんが出てくるようになってからは幸せだった。ただただコーヒーを出すだけでなく、みんなに少しだけでもゴキゲンになってほしいとずっと願っていたから…。
ゴキゲンくんが出せるようになったのは、実は余命宣告を受けた時。ワシはその瞬間絶望したよ。もう残された時間はないのかって。立ち直れない日々が続いたが、ワシは考えたんだ。残された時間でワシは何がやりたいんだろうって。その時コーヒーを溢してしまって、現れたのがゴキゲンくんだった。↑手書きの手紙っぽく
『やりたいことをやろうよ。ボクも手伝うから』
ってね」
そう、
「ワシが本当に幸せだった時間は、終わりを知った時からだったんだ」↑手書きの手紙っぽく
久世「そうだったんですね…」
ゴキゲンさん「ずっと一緒にみんなの笑顔を見続けたかった。お前と一緒にみんなをゴキゲンにしたかった。」
久世「それなのに私は…ごめんなさい…」
ゴキゲンさん「違うよ久世。謝らなくていいんだ。人間なんだから落ち込むこともあるし、物事を曲げて捉えることも仕方ない。なんで自分だけがこんな目に合うのとか、もう私に先はないとか思ってしまうこともあるだろう。でもそれは人が作り出した幻だ。ただただそう考えてしまってるだけなんだ。だから今この瞬間からそれを変えることが出来るんだ。
どうか自分の人生を愛してほしい。自分の人生を愛するとは、過去を受け入れて未来を信じて今を生きること。そして心豊かにゴキゲンに生きていくこと…。
久世にも素敵な未来が待っている。もしまだそれを信じることが出来なくても今はワシの言葉を信じておくれ。強く強く信じておくれ。大丈夫、きっと大丈夫だから…」↑手書きの手紙っぽく
久世「ワクさん…」
ゴキゲンさん「自分の人生を愛しておくれ。愛するとは動詞だよ。そう思い、そう動いてほしい」↑手書きの手紙っぽく
久世「…ありがとう。私も本当は分かってたの。今の自分は今の自分が作り上げているんだって。ワクさんやゴキゲンくんをずっと見てきたからね。でも、私はゴキゲンを選ぶことが出来なかった。選べばいいのに、選べるのにって何度も何度も思ったわ。でも、出来なかった…。
ありがとう、ワクさん。もう大丈夫。まだまだ私自身を信じきることは出来ないけど、ワクさんの言葉は信じれる。
私、変わるから。
ありがとう、ワクさん、そしてゴキゲンくん…」
久世は顔をくしゃくしゃにして泣いています。でも、その泣き顔は笑顔でした。
時は同じく、帰り道の3人はというと、
カロレス「久世ちゃん大丈夫かな~」
イーラ部長「まあ、大丈夫でしょ」
ジュンジ〜「大丈夫っすよ♪ゴキゲンくんがきっと久世ちゃんを元気づけるっしょ♪」
カロレス「まあ、そうですかね♪」
イーラ部長「あ、カロレスさんまで♪がついたような軽やかな口調」
ジュンジ〜「大丈夫っしょね~♪」
イーラ部長「あんたはほんと気楽よね~。ちょっとはマシになったと思うけど、やっぱり大事なとこで力が入っていないのよね〜。ちょっとは気合入れて頑張んなさいよ!」
ジュンジ〜「ほらイーラ部長、イライラしない♪」
イーラ部長はちょっとイライラしてます(笑)
イーラ部長「人間はそう簡単には変われないわね~。どんなにゴキゲンでいようと思っても嫌な気持ちの自分がひょっこり現れるのよね〜。」
カロレス「でも、ですよね」
3人は笑います。
イーラ部長「そう、でも、なの。ひょっこり現れるけど、でもゴキゲンくんの言葉もひょっこり現れてくれるの。ああ、そうだ。私はゴキゲンを選べる。選んでもいいんだよねって気づかせてくれるから…」
ジュンジ〜「そうですよね♪あの時から♪」
イーラ部長「そう、あの時からね♪」
その時カロレスの携帯に娘からメッセージが
そしてまた月日は流れ…
久世「コーヒーお待たせしました~^^」
そこには、人生を謳歌している久世の姿がありました。
さあ、あなたのそばにもゴキゲンくんがいてくれたら嬉しいな。