ボクがいけないいけないと思っているけど、ほぼ毎日買ってしまうものがある。買って食べてしまうものがある。それがピザポテト。日本人の叡智が結集したあの芸術。魔性の味に抗うことが出来ずボクは支配されている。ある意味悪魔の食べ物だ。
絶妙なチーズ。
少しだけ分厚いポテト。
なんか知らんけど計算し尽くされた波状の形。
どれをとっても天使すら奈落の底に突き落とすその洗練された美しさに酔いしれる。酒は飲まずともそれだけで気分は上々だ。
まさに奇跡。奇跡の食べ物。
今日は、そんな奇跡のピザポテトが起こした、奇跡の話をしようと思う。
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ナンシーは病室にいた。
ある時なぜか足が動かなくなり、そのためもう1年入院していた。
意識ははっきりしているものの、治療法が見つからない。
最初は右足だけだったのに、今はもう左足も動かない。
ナンシーは窓際を見て思う。
きっとあの木の葉っぱが全て落ちる頃には、私は全てが動かなくなるだろう。怖いけど、もう諦めた。もういい。あの木ともに逝こう。もう、それでいい」
ナンシーは恋人であるロナウドに告げた。
ロナウドは、ナンシーにもう何も言えなかった。
もうずっと勇気づけてきた。
大丈夫だよ、大丈夫だよ。きっと治療法は見つかるから。
毎日毎日心だけでも元気にしようと頑張ってきた。
でも、彼女の心には響かない。
ロナウドは考えた。
よし、せめてあの木の葉っぱだけはなんとか保ってやる。接着剤をつけててで落ちないようにしてやる。諦めが絶望に変わらないように、せめて。
そして、葉っぱは落ちなかった。ズルをしたから落ちなかった。悲劇のヒロインになったつもりのナンシー、覚悟をしていたのだが、もうずっと葉っぱが落ちないのでなんだか拍子抜けした気持ちになっていた。
「もしかして、まだ生きろってことなのかしら?』
落ちない葉っぱに一筋の光明を見出す。もう少しだけ頑張ってみようかな。幸い今動かないのは足だけ。足が動かなくて辛いと思うのか、足以外は元気いっぱいに動かすことが出来るのか。そう思うのは私の自由だわ。と。
が、しかし。
ナンシーは見た。
ロナウドがズルしているところを。接着剤を葉っぱにつけているところを。
でも、ナンシーは絶望しなかった。むしろ今よりずっと心が温かくなってきた。ロナウドは。毎日毎日夜な夜なそれをしていたのだ。接着剤が気になって毎日補強をしていた。ナンシーに死なないでほしいと。元気を取り戻してほしいと。雪の日は葉っぱを乾かしてからの作業。それは徹夜に及ぶこともあった。でも、ロナウドはずっとそれをやり続けていた。
その心が伝わったのだ。
私は私しか見ていなかった。あの人は私だけを見ていてくれたのに。
これからは違う。
私もちゃんとあの人を見よう。
あの人にももっと自分自身を大切にしてもらおう。
そしてその時から、ナンシーの病魔の進行は止まった。ロナウドが葉っぱの補強はもうやめたにも関わらず、だ。
刻は進む。
刻々と。
あらゆる病気を治す医師の噂を聞いた。どんな難病もたちどころに直すらしい。
それを聞いたナンシー夫婦は、その医師を探した。そして見つけた。そして目の前にその医師は現れた。
その医師はさすがに高額だった。しかしもう入院代で二人の財産は尽きていた。生活も圧迫し、もう食べるものにも困り果てていた。今食べているのはロナウドが作って販売しているピザポテトだけだった。
その事実を知りその医師は驚愕し涙する。
医者「……あなただったのか…。この神に愛されたお菓子を作り出したのは…」
医者「実は私は無類のピザポテト好きでしてね。これを作っている人に会いたかったのです。おお、今日はほんといい日だ。いいでしょう。報酬をいただかないわけにもいかないので、ピザポテト1年分、つまり730袋でいかがでしょう。それで治療いたします。」
ロナウドも涙した。そしてもちろんその条件で承諾した。
刻は進む。
刻々と。
ナンシーの病気は治り、望んだ生活ができるようになった。医師はこんな美味しいお菓子を作った人に出会うことができて満足している。ロナウドの苦労も報われた。
そんなピザポテトの物語。
じゃなくて、誰かのために頑張っている人は、きっと見ていてくれる人がいるからねって話でした。